症状固定:症状固定し、後遺障害申請・等級認定を受ける

1 症状固定

事故後に病院で一通りの治療を受けてきたが、これ以上大きく症状が改善しない状態を、症状固定と言います。

労災によるケガや病気について治療をしても完治せず、治療後も障害が残ってしまう場合をいいます。身体の障害に限らず、精神の障害も労災による補償対象となります。

労災において、後遺障害等級が認められれば、従業員は労災保険から後遺障害についての補償を受けることができます。後遺障害に対する労災の補償は、障害補償補償(業務災害の場合)または障害給付(通勤災害の場合)と呼ばれ、以下のものがあります。

症状固定となり、仕事をする上で支障が出るような後遺障害が残った場合、労災によって「後遺障害等級」が認定されると、「障害補償給付」が支給されます。

障害補償給付には、年金として継続的に支給される「障害補償等年金」と、一時的に支給される「障害補償等一時金」があります。

●後遺障害等級第1級から第7級に該当するとき

→障害補償等年金、障害特別年金、障害特別支給金

●後遺障害等級第8級から第14級に該当するとき

→障害補償等一時金、障害特別一時金、障害特別支給金

後遺障害等級は1級から14級まであり、数字が小さくなるほど重度な障害が認められたということになり、しびれは12級か14級に該当することが多いです。

適正な後遺障害等級を認定してもらうためには、医師に後遺障害診断書を作成してもらい、労働基準監督署長に、請求書を提出した後、調査官と面談をしたりと様々なステップを踏む必要があります。

この時、後遺障害等級について理解が不十分で、提出書類に不備があったりすると、給付が受けられない可能性があります。

また、症状固定との診断を受け、その翌日から5年が経過すると、時効により障害補償給付の請求ができなくなってしまいますので、その点にも注意しなければなりません。

体に残った障害の程度に対して、適切な等級を認定してもらうためには、適正な検査を行い、面談において症状を詳細に伝えるなどして、適切に対応することが必要です。

対応に悩まれた場合は、専門性のある弁護士にご相談ください。

2 後遺障害の申請、等級、認定について

⑴ 後遺障害の等級とその認定を受けるには、以下の手順を踏む必要があります。

・主治医から症状固定との診断を受ける

・後遺障害診断書を医師に作成してもらう

・障害補償給付申請書を労働基準監督署長に提出する

・労働基準監督署の調査官と面談する

・審査結果の通知を受ける

⑵ 提出する申請書類

障害補償給付の申請には、請求書を労働基準監督署長に提出して行います。

請求書は以下の決まった書式で提出する必要があります。

業務災害の場合:障害補償給付支給請求書(様式第10号)

通勤災害の場合:障害給付支給請求書(様式第16号の7)

これらの書式は、下記リンクの厚生労働省のホームページ「労災保険給付関係請求書等ダウンロード」からダウンロードすることができます。

また、請求書と一緒に、後遺障害があることを証明するため、以下の資料も提出する必要があります。

〇後遺障害診断書

〇レントゲン・MRIなどの検査結果の資料

〇治療費等の請求の場合は、その領収書

〇休業補償の請求の場合は、賃金台帳、出勤簿の写し等

〇(遺族補償給付の請求の場合は、死亡診断書、戸籍謄本等も)

⑶ 後遺障害の診断書について

(1)後遺障害診断書作成の依頼時のポイント

後遺障害診断書は、後遺障害を認定してもらう上でとても重要な資料となります。

これに不備があると、実際より低い等級に認定されてしまったり、そもそも後遺障害が認定されない、といったことになりかねません。

そのため、後遺障害診断書の作成を医師に依頼する際は、以下のポイントを意識しましょう。

①自分の症状がどの等級に該当するのかをきちんと把握しておく

②自分の症状を、可能な限り詳しく正確に医師に伝える

まず、治療の経過から、「これ以上大きく良くはならない」となったら、主治医から症状固定との診断をもらってください。

医師に症状を正確に伝えるために、事前に自分の症状についてメモにまとめ、それを医師に渡して、後遺障害診断書を作成してもらう際の参考にしてもらうのもよいでしょう。

痛む箇所は後から出てきたものについても含めてその時点から全て伝えていただき、改善したなら改善を、まだ痛みが残るなら軽減したかそれともあまり軽減していないのかなどをお伝えいただくことになります。

こちらについても、対応に悩まれた場合は、専門性のある弁護士にご相談ください。

(2)労働基準監督署との面談

無事に障害補償給付請求書を労働基準監督署長に提出し、後遺障害の申請ができたら、次は労働基準監督署の調査官または地方労災医員とよばれる医師と面談をする必要があります。

ここでは、提出した後遺診断書などからでは判断できないことを中心に質問されます。

面談の際は、聞かれたことに対してしっかりと回答し、ここでも症状を詳細に伝えていくことが重要です。

3 支給決定通知について

後遺障害が認定されると、支給決定通知兼支払振込通知が届きます。支給決定通知書には、認定された後遺障害等級が記載されています。

逆に、後遺障害が認定されなかった場合は、不支給決定通知が届きます。不支給決定通知には、後遺障害が認定されなかった旨が知らされます。また、不服がある場合は、通知されてから3か月以内に審査請求を行う必要があることに注意が必要です。

4 等級ごとの支給金額

⑴ 後遺障害等級第1級から第7級に該当するとき

障害等級給付額(年金)障害特別支給金
(
一時金)
障害特別年金
(年金)
第1級給付基礎日額の
313日分
342万円算定基礎日額の
313日分
第2級給付基礎日額の
277日分
320万円算定基礎日額の
277日分
第3級給付基礎日額の
245日分
300万円算定基礎日額の
245日分
第4級給付基礎日額の
213日分
264万円算定基礎日額の
213日分
第5級給付基礎日額の
184日分
225万円算定基礎日額の
184日分
第6級給付基礎日額の
156日分
192万円算定基礎日額の
156日分
第7級給付基礎日額の
131日分
159万円算定基礎日額の
131日分

⑵ 後遺障害等級第8級から第14級に該当するとき

障害等級給付額(一時金)障害特別支給金
(
一時金)
障害特別一時金
第8級給付基礎日額の
503日分
65万円算定基礎日額の
503日分
第9級給付基礎日額の
391日分
50万円算定基礎日額の
391日分
第10級給付基礎日額の
302日分
39万円算定基礎日額の
302日分
第11級給付基礎日額の
223日分
29万円算定基礎日額の
223日分
第12級給付基礎日額の
156日分
20万円算定基礎日額の
156日分
第13級給付基礎日額の
101日分
14万円算定基礎日額の
101日分
第14級給付基礎日額の
56日分
8万円算定基礎日額の
56日分

5 後遺障害が認定されない場合

労災で後遺障害を申請しても後遺障害として認定されないケースもあります。

特に、痛みやしびれについては、MRIなどで痛みやしびれなど、外形的な所見としては確認できないことがあります。

そのような場合でも、継続的に通院が続けられ、一貫した症状を訴えているときは後遺障害が認定されうることになります。

上記のとおり、後遺障害が認定されず不服がある場合は、通知されてから3か月以内に審査請求を行うか検討することになります。

6 慰謝料・逸失利益などの損害賠償請求を行なう際のポイント

労災で後遺障害が残った場合、労災とは別に、後遺障害について会社に対して損害賠償請求をするかという問題もあります。

というのも、労災では、後遺障害が残ったことによる慰謝料等の補償はされませんので、こういった損害について、会社に対して請求をするのか検討する必要があるからです。

その場合、会社側から、後遺障害が本当に労災が原因なのか、労災が原因だとしても病気や怪我についてあなた(従業員)に過失があったのではないか等の点について争われる可能性があります。

後遺障害等級が何級と認定されたかによっても会社の対応は変わってくるでしょうから、対応に悩まれた場合は、専門性のある弁護士にご相談ください。

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