交通事故と社会保険についてのQ&A

Q1 加害者側から(国民)健康保険を使って入通院してくれと言われました。

  ①これは大丈夫なのでしょうか?

  ②また,私(被害者)にメリットはあるのでしょうか?

 

A ①大丈夫です。

法律上,健康保険は業務外に発生した事故に基づく傷病について,国民健康保険は事由を問わずすべての傷病について給付を受けられることになっています。そのため,交通事故の場合でも,(国民)健康保険を利用して治療を受けることができます。

なお、(国民)健康保険を利用する場合には、第三者行為による傷病届などの書類の提出を求められることがあります。

 

 ②治療費を圧縮することができるというメリットがあります。

(国民)健康保険では診療報酬の単価が決まっており,いわゆる自由診療で治療を受ける場合と比較して,治療費を圧縮することができる場合があります。また,加害者が任意保険に加入していない,何らかの事情で保険会社が治療費を払ってくれない,という場合には,窓口での自己負担が3割に減らすことができます。

 

それだと,治療費を加害者側の保険会社に支払ってもらっている場合は関係ないのでは?と思うかもしれません。しかし,被害者側にも過失が認められるような事故の場合には,(国民)健康保険を利用したかどうかで,実際に受け取ることができる賠償額に大きく影響する場合があります。少しわかりにくいので具体的に見て行きましょう。

例えば,被害者Aさんの治療費として,㋐自由診療では総額200万円になりますが,㋑(国民)健康保険を使うと100万円になるとします。これらの治療費は加害者側の保険会社に支払ってもらいました。わかりやすくするため、その他の損害を合計200万円とします。そして,Aさんにも過失が40%認められる場合,相手方から受け取ることができる賠償額は以下のようになります。

 

 ㋐自由診療の場合

損害総額(200万円(治療費)+200万円(その他))×相手方の過失(100%-40%(Aさんの過失))-既払い治療費(200万円)=40万円

 ㋑(国民)健康保険を利用した場合

損害総額(100万円(治療費)+200万円(その他))×相手方の過失(100%-40%(Aさんの過失))- 既払い治療費(100万円)=80万円

 

上記のように、損害総額に過失を掛けて、既に受け取っている金銭等を控除するというのが、賠償の計算ルールになっています。(国民)健康保険を利用すると、加害者側の保険会社に支払ってもらう治療費が圧縮できるため、既に受け取っている金銭等である既払い治療費を減らすことができます。その部分が、最終的な受取額に響いていることがわかるかと思います。

このように、被害者側に過失がある場合には、(国民)健康保険の利用の有無によって、最終的な受取額に大きく変わる場合があります。

 

Q2 加害者側から(国民)健康保険を使って入通院してくれと言われました。

  ①実は、配達業務中の事故なのですが、これは大丈夫でしょうか?

  ②実は、通勤途中の事故なのですが、これは大丈夫でしょうか?

 

A ①大丈夫ではない場合があります。

   加入されている制度が健康保険である場合には、問題となる可能性があります。

これは、社会保険制度の住み分けの問題になりますが、Q1で記載した通り、法律上、健康保険は「業務外」の事故に対して給付を行うものとされています。そして、「業務上」の事故に対しては、原則として、労災保険から給付を行うこととされています。そのため、原則として、健康保険は使えないということになります。

ただ、労災保険は、請求すればすぐに給付を受けられる制度ではなく、労働基準監督署という役所が、「この事故は業務上の事故ですよ」と認めた場合にだけ給付を受けることができます。そこで、もし役所が何らかの理由により業務上の事故と認めてくれない場合には、「業務上の事故ではない=業務外の事故」となり、健康保険を利用できることになります。

なお、加入されている制度が国民健康保険である場合には、法律上、上記のような住み分けの問題がありませんので、利用することができます。

 

②大丈夫ではない場合があります。

これも、加入されている制度が健康保険である場合には、問題となる可能性があります。

やはり住み分けの問題になりますが、「業務外」の事故であっても、それが通勤途中の事故であれば、原則として、労災保険から給付を行うこととされています。そのため、原則として、健康保険は使えないということになります。

ただ、やはり、役所が「この事故は通勤途中の事故ですよ」と認めた場合だけ給付を受けることができるとされています。そこで、役所が認めてくれない場合には、健康保険を利用できることになります。

なお、加入されている制度が国民健康保険である場合には、やはり、法律上、上記のような住み分けの問題がありませんので、利用することができます。

 

③補足

なお、労災保険を使って治療を受けた場合、労災保険も診療報酬の単価が決まっており、自由診療より治療費を圧縮することができる場合があります。そのため、Q1と同様に、被害者側に過失がある場合には、利用の有無により、最終的な受取額に大きく影響する場合があります。

 また、労災保険では、原則として、自己負担なしに治療を受けられるというメリットもあります。

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