企業損害 間接損害について



                                                          弁護士 黒田充宏


Q 1  会社にはAしか所属しておらず、他に社員役員は存在しない場合Aが交通受傷したことで会社の売上げが減収した場合会社の減収を交通加害者に請求できるか?

Q 2  会社代表者Aが交通事故に遭い自分が業務をできないため、代替要員としてアルバイトBを雇用した。 A自身は会社代表者として役員報酬を会社から受領していたため、役員報酬の減収は無かったがBの人件費は交通事故の損害賠償として請求できるだろうか?


☆ 論点整理
1 
(1)Q1について(間接損害)

   会社とAが法的には別主体であることを考えれば会社が加害者に請求することはできないとも思えるがどうか。被害者の死傷の結果,それによって損害を被った他人があった場合,この他人も損害を賠償請求することができるかという問題がいわゆる間接損害の  問題である。このうち,法人である企業を構成する自然人の死傷事故によって会社に損害が発生した場合を特に企業損害と呼ぶ
  (2)Q2について(反射損害) まず、A自身には減収は無いためにAに損害は生じていない、しかし、会社にはAの代わりにBを雇用しておりBの人件費分を会社の損害として請求できるかが問題となる。
2  (1) Q1について
ア   間接被害者の請求の理論構成については多数学説があるところであり,代表的なものを紹介すると、損害の範囲の問題とみる考え方と賠償権利者の主体の範囲の問題とみる考え方があります。 前者が相当因果関係の問題として処理するのに対し,特定被害者の被った損害の範囲を確定するための理論に過ぎず,請求主体の確定にまで用いるのは制度目的をすでに逸脱しているとして,賠償権利者の範囲の問題とする後者の考え方が通説的な考え方です。
    そうすると,身体障害の場合における被害者すなわち侵害行為の対象となった保護法益の主体は,その身体に負傷した当人以外あり得ないので,原則的に間接被害者の請求を否定するという帰結になります。
     その理由は,他人に対する就労請求権のこのような不安定性は予め企業計算の中に織り込んでおくべきであること,企業にとってかけがえのない人物の死傷による損害については,生命保険・傷害保険による損害填補等を配慮すべきことを根拠としています。
イ 判例 
     しかし、たとえば、企業(事業)の減収がその構成員の減収と同視できる場合はどうでしょうか?会社といっても規模は様々です。社員は社長だけという会社も会社法上一部上場の会社と代わりはなく個人とはべつの法人として扱われます。しかし、このような会社においては実態はほぼ社長=会社となっていることが多々あります。 とすると社長の損害=会社の損害ともいえるのではないかという問題が生じます。 まさにこのような事例が問題となった裁判がありました。

           【事例 最高裁第二小昭和43年11月15日判決・民集22巻12号2614頁】
  薬局経営の有限会社Xの代表者Aが事故で受傷し,Xが売上減少の損害を請求。XはAの個人営業が法人成りしたもので,社員はA夫婦だけであり,Aは唯一の取締役で唯1人の薬剤師でもあった事案において,最高裁は,
 
     「X会社は法人とは名ばかりの,俗にいう個人会社であり,その実権は従前同様A個人に集中して,同人はX会社の機関としての代替性がなく,経済的に同人とX会社とは一体をなす関係にあるものと認められるのであって,かかる原審認定の事実関係のもとにおいては,原審が,Aに対する加害行為とAの受傷によるX会社の利益の損失との間に相当因果関係の存することを認め,形式上間接の被害者たるX会社の本訴請求を認容しうべきとした判断は正当である」

   と判断しています。
    このように裁判所は会社と代表者が「経済的一体」ないし「財布を共通する」ものについては法人格否認の法理の裏返しとして例外的に原告として請求できる(原告適格)を認める見解です。
    すなわち,Aが個人企業であれば請求できるものを形式的に法人なりしているというだけで加害者が賠償を逃れるのは不当であるという均衡論が根拠となっています。

 *メルクマール
   ここでいう「経済的一体ないし財布共通の関係」といえるかの判断基準としては「資本金額や売上高,従業員数などの企業規模,直接被害者の地位・権限・業務内容,会社財産と個人財産との関係会社機関(株主総会,取締役会)などの開催状況などを総合考慮して判断されます。

 *反射損害
   以上の企業が直接被った損害とは別に,会社構成員が受傷したことで休業した期間についても支払を余儀なくされた賃金や治療費を会社が立替えて支払った場合の治療費などを反射損害といい(肩代わり損害)これらについては請求が認められるとされてきました。 例えば,従業員が休業中に会社が支払った賃金は問題なく反射損害として請求できるとされています。従業員が休業すれば雇用契約上予定されている給付を受けられないにもかかわらず賃金を支払えば,それは会社にとって損失と言わざるを得ません。
 
 *代替労働費について
   ではQ2のような代替労働費についてはどうでしょうか? 会社が直接被害者に休業損害を肩代わりして支払い,それが会社の損害として認められるとすれば,代替労働費や外注費はその休業損害と実質的に重複するものと考えられ,仮に代替労働費や外注費が休業損害の額を超えるものであっても,結局は経費が増加したことによる収益減として固有損害と評価し,最高裁判所が示したメルクマールすなわち「経済的一体ないし財布共通の関係」が認められるかどうかにより,その請求の是非を判断すべきことになります。



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